授業再開に不可欠な、教育条件・勤務労働条件の、緊急の要求書

2020年5月21日

大阪市教育委員会

教育長 山本 晋次 様

なかまユニオン・大阪市学校教職員支部

支部長 笠松 正俊

 前略。新型コロナウイルス感染の大阪府内の正確な実態(実際の感染者数予測、無症状感染者数、児童・生徒からの家庭内感染の実態の有無、等)が全く検証されていない中で、府知事は経済回復だけを優先し、また大阪市教委も授業再開を進めている。市教委の5月18日通知「教委校(小)第18号・(中)第22号」では、卒業学年については「休業中の登校日における授業実施」を指示している。しかしその内容は大きな問題がある。

 授業再開のためには不可欠な、新たに必要な教育条件と勤務労働条件について、以下の要求を提出し、各担当課の責任者との協議を申し入れます。

 授業再開の前提として、組合は以下のように考えます。

 ①治療薬やワクチンを開発する目途が世界的に立っていないので、今後来年にかけても長期に、第二波、第三波の感染拡大がありうる。「9月入学制」の論議があるが、感染が収束している保障がないのに導入を検討することは間違いで、何よりも感染拡大を防ぎ、少しでも安全に安心して授業再開するための、新たな条件整備に集中すべきだ。

 ②「コロナ危機後の新しい生活スタイル」が言われているが、学校教育も単に「以前の授業と学校生活に戻る」のでは、子どもの不 安に応えることも、感染拡大を防止することもできない。今後必要なのは、単に学力調査の点数結果やそのための授業時間数の確保ではなく、子ども自身がコロナ危機の中で「命を守って生活していく」ために考える力だ。

なお大阪市教委は5月7日通知「教委校(幼)第9号・(小)第16号・(中)第19号」で、休業中の登校日の設定に関して、感染防止と子どもの心身のケアのためのいくつかの対策を指示している。その中の必要なことは授業再開時にも継続することは前提にして、以下の新たな条件保障を要求する。

またコロナウイルスは子どもと教職員の間でも感染するので、子どもの教育条件の保障と、教職員の勤務労働条件である職場の労働安全衛生環境の保障は、一体で進める必要がある。

(1)授業再開時点で必要な要求内容

(ア)基本的なこと

・子どもは大きな不安とストレスを抱えて登校を再開する。単に進級・進学時期をまたいだ長期の休業だったという、友だちとの関係や学習進度の問題だけではない。それ以上に大きいのは、大人も未経験で手探りで生活せざるを得ない「コロナ危機」は、子どもにとっても「未経験の学校生活」になるという不安の問題だ。子どもが「コロナ危機」を、自分が大人になっていく世界の問題として考えていけるように保障することが、教育委員会の基本課題だ。

・そのために、学校教育の当事者の児童・生徒と保護者と、学校現場の子どもの現状を一番知りうる教職員の、不安と要求を調査しつかむことこそが、教育委員会の最優先の課題だ。

・休業中の家庭連絡が不十分な場合、子どもが特に学校と教職員に対して不信感を高めている場合がありうる。まずそういう気持ちが出せる、教職員が気づくことが必要だ。

・保護者は非正規雇用者の解雇を始め厳しい生活を強いられ、休業期間中に子どもの貧困の格差は拡大している。教育委員会が休校以降の子どもの生活状態を改めて把握し直して、支援制度につなぐことが必要だ。

(イ)教育内容について

・子どもの実態に応じて最小でも1週間、教科学習を始めずに、「コロナ問題と休業中の生活」につ  いての子どもどうしでの意見交流を持ち、教職員と子どもとの関係を回復すること。

・その上で、単に感染防止のノウハウ指導(手洗い、うがい、マスク、友だちとの距離、等)だけでなく、それがなぜ必要で意味があるのかを理解できるために、「新型コロナウイルス感染とはどういう病気なのか」自体の学習を、年齢・発達段階に応じて、教科学習を始める前提として行うこと。

・上記のためには先に教職員自身の研修が必要なので、教育委員会は、「新型コロナウイルス感染症教育」の教材・情報の教職員による交流と提供を支援すること。そのために、教育センターに担当者を置くこと。なお研修の形態は、密集ではなく、Web研修を利用すること。

・夏休みの削減や土曜授業等で「年間授業時数の確保」を機械的に優先することは、不登校を増大させる等の子どもの利益に反する結果になる。文部科学省が通知しているように、年間の授業時数を柔軟に短縮し、教職員が年間の指導内容を精選することを、教育委員会が支援すること。

・中間テスト、期末テスト、学力調査を実施せず、各学期末評価を当面見送ることを、教育委員会が推進すること。

(ウ)感染防止と健康管理対策

・公共交通機関での感染防止のために、分散授業などの子どもの登校実態に応じて、教職員の在宅勤務(テレワーク)と時差出勤(勤務時間の割り振り変更)を引き続き推進すること。

・公共交通機関で通学する生徒が多くいる高校については、始業時間自体を1時間程度遅くして、感染防止を計ること。

・大阪市教委の5月7日通知では、登校時の体温測定は「教室に入る前に家庭で登校前に検温した結果を口頭等で確認し、・・・」としている。しかし、各家庭の環境格差と「虚偽」の報告もありうるので、家庭に任すのは間違いだ。非接触型体温計を必要十分な個数を、至急に配備すること。

・登校後に発熱した子どもを帰宅まで看護する部屋を、けが等で処置する保健室とは別に確保し、ベッド等の安静環境を整備することを、徹底すること。

・子どもと近距離で、また時には接触して指導せざるを得ない保健室の養護教諭と、支援学級担当教員に、フェイスシールドと手袋等の感染防護用の備品を配備すること。また、それ以外の全教職員に対しても、希望する教職員には同様に配備するとともに、マスクによる飛沫感染防止だけでなく、接触感染の防止を徹底すること。

・教室、廊下等の校舎の清掃・消毒は教職員ではなく、清掃業者と契約して配置することを基本にすること。

・給食の実施にあたって、飛沫感染防止だけではなく、接触感染防止を徹底すること。

・大阪市教委は、5月15日通知「教委校(全)第17号」で定期健康診断について休業期間中の登校日も含めての実施を指示し、実施できるもの(内科健診・心臓検診・結核健診・尿検査・身長体重測定・視力検査・聴力検査)と、引き続き実施しないもの(眼科健診・耳鼻咽喉科健診・歯科健診)に分けている。しかし、単に飛沫感染防止だけでなく、接触感染防止の観点からもさらに絞るべきだ。「身長体重測定」等の「不急」なものは外し、「結核検診」等の法的にも必要なものに限定すること。

(2)授業再開以降に、中期的に必要な要求内容

(ア)感染防止のための教室の確保について

・空き教室を改装し、少人数での分散学習のために、長期に利用すること。

・猛暑日等にエアコンを使用する場合に換気機能はないので、クルーズ船問題対応で発覚した空調設備問題の経過から学び、窓を開けて換気するガイドラインを作成し指示すること。

・生野区等での学校統廃合のために3月大阪市会で成立した「学校統廃合条例」を、当面2年間凍  結し、少人数学習に利用すること。

(イ)Web授業の導入について

・子どもの自宅での学習を含めて、教員からの講義の視聴だけの一方通行では、意味がない。子ども が発言し質問して双方向で利用できるために、自宅学習の前提として登校時の学習でのていねいな習熟の期間を保障すること。それ抜きで講義形式だけで拙速に進めることは、授業が分からない子どもが増えて学力格差が広がり、子どもの利益に反する結果になる。

・タブレットや各家庭のインターネット環境整備のための、各家庭・保護者の経費負担についての実態調査を、導入の前提として行うこと。保護者の経済条件によって、子どもの教育格差を拡大する結果になってはならない。家庭環境が整備できる子どもから開始することは、公教育として論外だ。

・授業者の教員の要求(ニーズ)を尊重し、それ抜きに「使用時間数の目標」等を機械的に指示することは、厳にしないこと。

(ウ)在宅勤務(テレワーク)時の教職員の負担経費の保障について

・子どもの現状を把握し指導するために、在宅勤務時の携帯端末やWeb利用の必要な経費を、保障すること。

(エ)非常勤講師の雇用(任用)の継続確保について

・休業中に非常勤講師が在宅勤務しているので、授業再開後に、授業課題があるのに年間雇用契約の 35週分がなくなる可能性がある。子どもの教育保障と、非常勤講師の雇用保障のために、36週分以降の必要な授業時数分の手当を、補正予算を組んで支払うこと。

(オ)今後の再休業(休校)判断の基準と指針について

・経済活動の自粛(・補償)措置と、学校の休校判断とは、それぞれ別の判断をすべきです。首長ではなく教育委員会(教育長)の責任で、今後の「コロナ対策」再休校の場合の「判断基準」を作成すること。

・休校中の子どもへの連絡体制と可能な教育活動について、教育委員会の責任で「指針」を作成すること。

以上です。

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