要求書

( 以下の「大阪市教育委員会」宛とほぼ同内容の団体交渉要求書を、「大阪府教育委員会」宛にも「大阪府学校教職員支部」から提出しています。 )

要 求 書

2020年1月27日

大阪市教育委員会

教育長  山本 晋次 様

なかまユニオン大阪市学校教職員支部

 前略。

 教職員に1年間単位の変形労働時間制を導入する「教職員給与特別措置法」(給特法)改定案が国会で反対意見を無視して可決された。2021年度からの導入のための各自治体での条例制定が、来年度から可能になった。しかし、この過程で教員団体の声は一切考慮されなかった。

ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」は、1966年10月5日に教員の地位に関する特別政府間会議において日本も含め採択されたものです。文科省も2019年7月26日の私たちの組合も参加した市民団体との協議の中で、「『勧告』は尊重しながらも、わが国の実情や国内法制に適合した形で取り組みをすすめたいと考えている。」と回答しています。この回答からすれば、今回の「教職員変形労働制」法についても、「教員の地位に関する勧告」の下記の項目(末尾に「参考資料」)に則った、法案提出前の教員団体との協議・交渉を行い、その内容を反映した国会での議論がなされるべきです。

 この経過を受けて、教員の労働時間の設定と管理という直接の勤務労働条件に関して、以下の要求を提出し、来年度の改定法の施行を待つことなく至急に団体交渉を開催することを要求します。

〇 要求内容

  1、大阪市は、教職員に1年間単位の変形労働時間制を導入しないこと。導入のための条例案を議会に提出しないこと。

  2、大阪市は、「教職員給与特別措置法」(給特法)を廃止し、教職員に超過勤務手当を支払う法制化をすることを求める意見書を国に提出し、勤務労働条件の改善に努力すること。

〇 要求の理由

 ・改定された「教職員給与特別措置法」(給特法)は、条例を制定して変形労働時間制を導入するかどうかは、自治体ごとの判断になっています。精神疾患の病休が全国で一番多いことに象徴される大阪の教職員の過労状態の責任者である教育委員会が、それに追い打ちをかけることが明らかな「変形労働時間制」を導入することはしてはなりません。

・この改定法は教員に1年間単位の変形労働時間制を導入し、学期中の繁忙期の勤務時間の上限を引き上げ、夏休み期間中などに休日をまとめて取得させようとするもので、各自治体の条例化で2021年4月から導入できるとしています。「改正案」は教員の長時間労働是正策を議論する中央教育審議会の2018年12月の特別部会で、公立小中学校の教員の残業時間を原則「月45時間以内」、繁忙期でも「月100時間未満」とする指針案が了承され、「給特法改正案」となって今回上程されました。

・そもそも「給特法」は教育労働者に対する労働基準法適用除外とともに、「教育職員については、時間外勤務手当及び休日勤務手当は、支給しない」ことを法定化し、「残業代」に代わって基本給の4%に相当する「教職調整額」を毎月支給することを基本設計としています。この制度設計がなされた時代と現在の現場の実態はかけ離れたものになっています。文科省の16年度調査では「中学校教員の約6割、小学校教員の約3割の残業時間が、おおむね月80時間超が目安の「過労死ライン」を超えていた」実態となっています。総務省の地方公務員給与実態調査(2016年)では、小中学校教員の平均月給は約36万円(基本給、平均43.1歳)で、「教職調整額」4%は約1万4000円にしかなりません。これを想定した月の時間外勤務時間数80時間で割ると、残業1時間あたり200円足らずとなり、最低賃金を大幅に下回り、事実上の「残業代ゼロ」で働かせ放題となっています。こうした実態を抜本的に改善することこそ文科省に問われています。

・労働基準法で残業代の割増を法定化しているのは、雇用主の負担を大きくすることで「残業時間」を抑制させるためです。生存権保障のため憲法第27条に基づいて制定された労働基準法の適用を除外し、最賃基準さえ下回る「教職調整額」で済ませてきたことが、「2015年度にうつ病などの精神疾患で休職した公立学校の教員は5009人」(文科省調査)と2000年度(2262人)の倍増という状況を生み出している原因で、責任は政府・文科省の不作為にあります。

・労基法上、1年変形労働制を導入するためには、対象期間の労働日数、1週間・1日の労働時間数、連続して労働させることのできる日数について限度が決められており、会社は、この限度を超えない範囲内で、対象期間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間を定めなければなりません。会社は、1人でも法定労働時間を超えて労働させる従業員がいれば、36協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届出が必要となります。教員への「変形労働時間制」導入はこうした手続きさえ抜きにすべてを自治体の条例で一括りにする現場無視の制度化であり、ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」にも反するものです。

・公立校の勤務時間は自治体の条例・規則などで決まっており、8:15~16:45(7時間45分の勤務時間+45分の休憩時間)が通例となっています。変形労働時間制が導入されると、繁忙期は勤務時間が19時前後までになる可能性があり(最大で10時間の勤務時間+1時間の休憩時間)、夕方遅い時間に会議が設定されてしまいます。変形労働時間制を定めた労働基準法施行規則では、育児・介護を行う者など特別の配慮を要する者に必要な時間を確保できるような配慮が必要と定めており、中教審答申でもこうした配慮が必要な教員には、1年単位の変形労働時間制を適用しない選択ができる措置をすることを求めています。また、1年単位の変形労働時間制には、「1箇月を超え1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えないこと 」「労働時間の限度は1日につき10時間まで、1週間につき52時間まで (※対象期間が3ヶ月を超える場合は、48時間を超える週は3カ月で3回まで)という条件が必要」となります。

現状でも、非常勤職員などが多くなっており、様々な勤務形態の教職員が存在し、年齢構成か  ら育児や介護で配慮が必要な教職員も多くなる中で、管理職が「勤務の割振り」を作成することは実質不可能で、各自治体で条例を作っても学校現場での混乱と破綻は明らかです。

・長時間労働による学校現場の実態を抜本的に改善するためには、ILO・ユネスコ「教員の地位に関する勧告」の「82項:教員の給与及び勤務条件は、教員団体と教員の使用者との間の交渉の過程を経て決定されるものとする」及び「89項:教員の1日及び1週あたりの勤務時間は、教員団体と協議の上定めるものとする。」を遵守すべきです。根本的には、現行の「給特法」を廃止し教育労働者に労働基準法を適用することで、残業代支給を抑制するための時間規制を強化することと、その実現のための正規教員の人員増こそが必要です。

・なお大阪市教育委員会は、2019年12月10日の会議で、「働き方改革推進プランについ て」を決定しています。「第1・2・(2)教員の勤務の特殊性を踏まえた本プラン策定の必要性」では、 「超過勤務時間には該当しないとしても、校務として行うものについては、教育に必要な業務として勤務していることに変わりはなく、・・・長時間勤務の解消を図る必要があります。」としています。この実態の解消ではなく、形式上「勤務時間内だ・・・」と扱うことで過労実態の隠ぺいになる変形労働時間制は、大阪市教育委員会の責任で拒否すべきです。

〇 参考資料

教員の地位に関する勧告(文科省HP掲載の仮訳より抜粋。関係する部分に下線)

1966年10月5日  教員の地位に関する特別政府間会議採択

……………………

9 教員団体は、教育の発展に大いに貢献することができ、したがって、教育政策の策定に参加させられるべき一つの力として認められるものとする

……………………

10 人的その他のあらゆる資源を利用して、前記の指導原則に即した総合的教育政策の樹立に必要な範囲で適切な措置が各国において執られるものとする。この場合において、権限のある当局は、次の原則及び目標が教員に及ぼす影響を考慮に入れるものとする

……………………

e 教育は継続的過程であるので、教育活動の諸部門は、すべての生徒のための教育の質を改善するとともに教員の地位を高めるように調整されるものとする

……………………

75 教員がその職責を遂行することができるように、当局は、教育政策、学校組織、教育活動の新しい発展等の事項について教員団体と協議するための承認された手段を設け、かつ、定期的に利用するものとする。

76 当局及び教員は、教員が教育活動の質の改善のための措置、教育研究並びに改良された新しい方法の開発及び普及に、教員団体を通じて又はその他の方法により参加することの重要性を認識するものとする

77 当局は、一学校内又は一層広い範囲で、同一教科の教員の協力を促進するための研究グループの設置を容易にし、かつ、その活動を助長するものとし、このような研究グループの意見及び提案に対して妥当な考慮を払うものとする

……………………

82 教員の給与及び勤務条件は、教員団体と教員の使用者との間の交渉の過程を経てされるものとする

83 教員が教員団体を通じて公の又は民間の使用者と交渉する権利を保障する法定の又は任意の機構が設置されるものとする。

84 勤務条件から生じた教員と使用者との間の紛争を処理するため、適切な合同機構が設けられるものとする。この目的のために設けられた手段及び手続が尽くされた場合又は当事者間の交渉が決裂した場合には、教員団体は、正当な利益を守るために通常他の団体に開かれているような他の手段を執る権利を有するものとする。

……………………

89 教員の 1 日及び 1 週あたりの勤務時間は、教員団体と協議の上定めるものとする

90 授業時間を定めるにあたっては、次に掲げる教員の勤務量に関するすべての要素を考慮に入れるものとする

  a 教員が教えなければならない 1 日及び 1 週あたりの生徒数

  b 授業の適切な計画及び準備並びに成績評価に必要な時間

  c 毎日の担当授業科目数

  d 教員が研究、課外活動並びに生徒の監督及びカウンセリングに参加するために必要な時間

  e 教員が生徒の発達について父母に報告し、及び父母と相談するために必要な時間

                                           以上です。

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