松井一郎市長あての「お願い」(要請)文書

4月10日午後、私は大阪市役所のコロナウイルス感染症対策本部に出向き、本部長松井一郎市長あての「お願い」(要請)文書を手渡してきました。

 内容は、大阪市教育委員会が欧州からの帰国者である私の自宅勤務(または職務専念義務免除〈職免〉、自宅での研修)を認めず「電車での出勤」を命じたことの再検討を求めたものです。個人名の「お願い」で、いわば直訴状です。

 私は、教職員なかまユニオンのILO(国際労働機関)―ユネスコ合同委員会要請団の一員としてスイス・ジュネーブを訪問し、3月17日に帰国。その日は、政府専門家会議が欧州からの帰国者に2週間自宅待機と公共交通機関不使用を求める方針を出していました。

 私は、職場の管理職を通じて勤怠(出勤と欠勤等)の扱いを市教委に問い合わせてもらいましたが、「帰国が3月21日(政府指示)以前なので特別休暇にはできない。後は校長権限の範囲」が回答でした。「では『自宅での研修』という扱いで」と管理職と確認したにもかかわらず、3月24日になって市教委が「『自宅での研修』は認めない=電車での出勤を命じる」と言ってきたというものです。

 根拠は、10年前の通知「自宅での研修は原則承認しない」でした。その結果が8日間の欠勤扱いです。

 市教委のこの硬直した姿勢は、教職員を徹底的に締め付ける橋下市政以来10年に及ぶ維新市政の中でつくられたものです。しかし、コロナ危機の中で、誰が見てもずれすぎていることがますます明らかになってきています。

 コロナウイルス感染症対策本部は、私の訴えを黙殺しようとしています。5月支給の給料から8日欠勤相当分・10万円ちょっとの額が差し引かれようとしています。私は、4月22日、「私が提出した『お願い』文書とその文書のその後の扱いがわかる文書」の個人情報開示請求を行いました。こんな大阪市教委の姿勢のままでは、コロナ感染症の拡大を防げないと訴え、欠勤=減給の撤回を求めたいと思っています。

 2020年5月 松田幹雄

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 (以下、松井一郎コロナ感染症対策本部長あて「お願い」)

  2020年4月10日

大阪市新型コロナウイルス感染症対策本部長

 大阪市長 松井一郎様

 大阪市立●●中学校 教諭 松田幹雄

お願い

 大阪市新型コロナウイルス感染症対策本部長である松井一郎市長にお願いがあり、この文書を届けさせていただきます。

新型コロナウイルス感染拡大防止が大きな課題となっています。大阪市においても対策本部がつくられ、休校措置など様々な対策が講じられています。また、この事態に対応するため、教職員の勤務条件・勤怠の取り扱いも、「教職員または親族等に発熱等の風邪症状が認められ、感染防止の観点から勤務しないことがやむを得ない場合」や「学校の臨時休業等により子の世話が必要になったため、勤務しないことがやむを得ない場合」などに特別休暇を認めるなど、必要に応じて柔軟な対応が行われてきました。しかしながら、新型コロナウイルス感染拡大につながりかねない、勤怠についての硬直した対応の事例もありました。新型コロナウイルス感染拡大防止がしばらくは重要課題であり続けるだろうことが予想されるとき、私の経験した事例をお知らせし、ぜひ、大阪市新型コロナウイルス感染対策本部長として、教職員の勤怠の不適切な取扱いを見直していただくよう要望いたします。

私が経験した事例

 私は、3月17日(火)の夜にスイスから帰国しました。そして、帰国当日、新型コロナウイルス感染症対策政府専門家会議が、厚生労働省に、欧州諸国等からの帰国者や入国者への対応を要請したことを知りました。それは、自宅や宿泊施設での入国後2週間の待機を要請し、また、公共交通機関を使用しないよう求めるというものでした。

3月18日には、新型コロナウイルス感染症対策本部の会合で、安倍首相が「3月21日午前0時以降に欧州(ほぼ全域)を出発し入国した者には、日本人を含め、検疫所長の指定する場所で2週間待機し、公共交通機関を使用しないよう要請する」と述べたことが報じられました。それを受けて、3月20日、吉村大阪府知事は、「府民の皆さんへ」と題したメッセージの中で、「2週間以内(3月5日から19日まで)に海外から帰国された府民の皆様」と、呼びかける相手を特定して行動に注意するよう要請しています。大阪市ホームページにも、3月24日、吉村知事メッセージとほぼ同文の松井市長メッセージが掲載されました。

このような状況の中で、私は、勤務校の管理職と相談して3月18日から自宅で待機し、勤怠の扱いを市教委に問い合わせてもらいました。3月19日に、市教委から検討結果の連絡がありました。「市長部局(人事室)とも連絡を取って検討したが、欧州出発が3月21日午前0時以前なので、特別休暇扱いにはならない。後は、校長権限の範囲内で考えてもらうしかない。」というものでした。

管理職に相談し、「自宅での承認研修」として扱うことを了解してもらい、研修計画を提出して、自宅での研修を始めていました。しかし、3月24日、市教委事務局から、「自宅での研修は認められない」との連絡がありました。その市教委判断は、公共交通機関を使って出勤せよと命じることを意味しました。後日、自宅での研修を認めない根拠を問い合わせると「2010年7月9日付『教育公務員特例法第22条第2項の規定に基づく研修の取り扱いについて』という市教委の通知文の中に「『自宅』を研修場所とする場合は、原則承認しない」という文言があるのが根拠だとのことでした。

 <検討し、見直していただきたい教職員の勤怠の取り扱い

1.3月17日に欧州から帰国した教員を特別休暇の扱いにしなかったこと

3月14日に欧州から帰国した京都産業大学生のコロナウイルス感染が後に判明し、その時まで知らずに感染源となってしまっていたということがありました。私が帰国した3月17日時点で、政府専門家会議の方針はすでに出されており、出勤するかどうかの判断が求められた3月18日には、政府方針も明確になっていました。「3月21日午前0時以降」という判断基準は、実務的な準備時間を考慮して設定されたものであり、私が、2週間の待機・公共交通機関を使わないことを求められる対象者であることは明らかでした。コロナウイルス感染防止対策のために様々な特例を設けてきた経過からすると、特別休暇にすべき事例であったと考えます。文部科学省の2月28日付通知に示された「在宅勤務」や「職務専念義務の免除」として扱うこともできたのではないでしょうか。

2.3月17日に欧州から帰国した教員の「自宅での研修」を認めなかったこと

市教委が、「2010年7月9日付『教育公務員特例法第22条第2項の規定に基づく研修の取り扱いについて』の通知で、「『自宅』を研修場所とする場合は、原則承認しない」とした主な理由は、「自宅での研修」には市民の理解が得られないということでした。今回の場合、市教委は、「自宅での研修」を否定することで、コロナウイルス感染の可能性を指摘されている欧州から帰国した教員に対して、「帰国直後からの電車通勤」を指示したことになります。幸い、私の場合、発熱することもなく2週間が過ぎたので、今では、感染はなかったと確信できましたが、市教委は、それがはっきりしない段階での電車通勤を命ずるべきではなかったと思います。3月17日に欧州から帰国した教員に「電車での通勤を命ずること」と「自宅での研修を認めること」のどちらが、より市民の理解を得られるでしょうか。「原則承認しない」との過去の通知の文言をもとに、今回「自宅での研修」を認めなかったことは明らかに誤りであると考えます。

 私自身は、3月17日の帰国時より、国の方針で「2週間は待機、公共交通機関は使わない」対象者となっていることを強く意識していました。結果からすると、市教委の指示に従って出勤したとしても問題は起こらなかっただろうと思います。しかし、市教委の指示に従っての出勤は、「自分が感染源となっているかもしれない」との不安感・罪悪感にさいなまれながらの出勤になります。それは私にはできませんでした。

大阪市教委の私の勤怠についての検討が、なぜ、「公共交通機関による出勤を避けるために何ができるのか」というスタンスにならなかったのか…ここに表れた認識が問題ではないかと感じます。

私の勤怠の取り扱いについて、再検討・見直しをしていただくことは、今後の感染症拡大防止のための対策にとって重要なことではないでしょうか。

なお、上記1・2の取り扱いのため、私の場合、「8日間の欠勤」(減給)となっていること申し添えます。ご検討、よろしくおねがいします。

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