2021年5月25日
大阪市長 松井 一郎 様
大阪市教育委員会 教育長 山本 晋次 様
なかまユニオン・大阪市学校教職員支部
支部長 笠松 正俊
なかまユニオン・大阪府学校教職員支部
支部長 山田 光一
5月17日付で松井市長、山本教育長にあてて送られた大阪市立木川南小学校久保敬校長の「大阪市教育行政への提言:豊かな学校文化を取り戻し、学び合う学校にするために」は、緊急事態宣言下のこの間の市教委・学校の対応が「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況をつくり出していることに、胸をかきむしられる思い」をもつ一校長の、やむにやまれぬ思いの発露でした。私たち「教職員なかまユニオン」はこの思いに共感し、「提言」を支持するものです。
市長、教育委員会は、この提言がどのような現実をもとに発せられたものなのか、その背景をしっかり把握・分析し、今後に活かすことが求められています。しかしながら、5月20日の大阪市会教育こども常任委員会審議、及び、5月20日と5月21日の松井市長囲み会見での市長及び市教委の姿勢は、「提言」を受け止めないばかりか、あたかも「提言」が懲戒処分に値する非違行為であるかのような扱いをして、自らの過ちへの指摘を抑えつけようとするものでした。このような現実に真摯に向かわない姿勢こそ、子どもたちに犠牲を押し付けることになった原因であり、根本的な反省が求められていることを指摘したいと思います。
今回「子どもの安全・安心も学ぶ権利もどちらも保障されない状況」をつくってしまった原因は、オンライン学習の準備状況をまったく把握していなかった松井市長が、4月19日、「緊急事態宣言が発令された場合には、オンライン授業を基本とする」と一方的に発表したことにあります。
「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」は、「第1条の3」で以下のことを法定しています。
「第1項 地方公共団体の長は、教育基本法第17条第1項に規定する基本的な方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策の大綱(以下単に「大綱」という。)を定めるものとする。
第2・3項(略)
第4項 第1項の規定は、地方公共団体の長に対し、第21条に規定する事務を管理し、又は執行する権限を与えるものと解釈してはならない。」
同法の「第21条」とは、以下です。
「第21条 教育委員会は、当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で、次に掲げるものを管理し、及び執行する。
第5項 教育委員会の所管に属する学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。
第9項 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
(他の項は、略)」
松井市長の今回の行為は、明確な違法行為でした。
そして、条件が整っていないことがわかっていながら市教委がそれに追随して、学校現場に矛盾を押し付けたことにも重大な行政責任があります。
私たち教職員なかまユニオンは、4月28日に、松井市長に対して、
「1.市立学校において、オンラインによる授業とすると言及した発言を撤回すること。
2.PCR検査を、感染者が出た場合には、濃厚接触者に限定せず、接触者・集団全員に対して積極的に実施するための予算を立て、早急に検査体制を整えること。」
の2項目の要請を行いました。
また、山本教育長に対して、4月26日に、
「1.全員一律のICT家庭学習(オンライン授業)を中止すること。
2.オンライン授業については、登校に不安を感じている子どもがいる場合や、感染者が出た学校で補助的手段として活用できる条件づくりを進めること。
3.感染者が出た学校では、PCR検査を、子ども全員や全教職員に対して行い、無症状の陽性者を把握して、限定した休校・学級閉鎖を行うこと。」
を要請し、
5月17日には、それに加えて、「文科省『全国学力調査』(5月27日)と大阪府独自テスト『小学生すくすくテスト(ウオッチ)』(6月8日までの期間中)への大阪市立校の参加を取りやめること。」を要請しました。
松井市長、大阪市教委は、久保校長の「提言」をしっかり受け止め、子どもたちの健康・安全を守り、きちんとした学習保障を行うために、この間の対応の誤りについて、真摯な総括を行うべきです。
万が一にも、子どもたちへの責任の自覚から提言を行った久保校長を処分するようなことがあってはなりません。
なお、2020年12月1日の市民団体との公式協議の中で、「公務員だから市長の政策批判をしてはいけないということはあり得ないですね」と市民団体側が確認を求めたことに対して、大阪市教育委員会が「はい」と明確に認めている議事録が、大阪市ホームページ(教育委員会)に掲載されていることも申し添えておきます。(2021年3月22日付で掲載)
以下、要請します。
【要請項目】
1. 今回の「オンライン(+プリント)中心の一律家庭学習」について、きちんとした総括を出すこと
2. 久保校長に対して、懲戒処分はもとより服務上の措置も含めた一切の「処分」をしないこと
以上です。
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[ この要請書への、大阪市教委の文書回答(2021年6月25日付)は、以下。]
① 緊急事態宣言期間中における家庭学習については、学びの保障を行うために、昨年度に整備した1人1台の学習者用端末を活用したオンライン学習等の取り組みを進めました。家庭におけるオンライン学習の内容としては、学習動画の視聴をはじめ、調べ学習や双方向オンライン学習等、児童生徒の発達段階や教科・単元の特性に応じて、プリント学習等と組み合わせて実施しました。
当初の緊急事態宣言期間であった4月26日から5月11日を調査期間として、ICTを活用した学習について、課題分析を行うとともに、好事例を各校で共有するために実施した状況調査からは、以下の結果を得ることができました。
接続テストを含めた双方向通信について、小中ともに9割を超える学校において取り組めたものの、小学校で約40%、中学校で約35%が通信が不安定であったと回答しています。ICT機器を活用するうえでの機器環境等における主な課題としては、校内等の通信環境が不安定であることなどがあげられておりました。また、児童生徒に対して端末操作や家庭におけるインターネット接続についての詳細な説明や指導を十分に行うことができていなかったり、双方向オンライン学習で活用するための教材の準備に時間がかかったりするなど、ハード面のみならずソフト面に関する課題もあげられておりました。
通信環境の改善については、増大する通信容量にも対応できるよう、今年度の10月以降をめどに新ネットワークへの切り替えを進めてまいります。また、児童生徒への端末操作や家庭でのインターネット接続に関する指導については、機能追加に応じて児童生徒用マニュアルを更新する等、オンライン学習をスムーズに実施できるよう資料の更なる充実を図るとともに、機器やソフトウェア等の操作支援を行うICT教育アシスタントが各学校を訪問しながら教員に対して直接支援するとともに、オンライン学習における効果的な指導法についてICT教育推進アドバイザーによる指導助言を行うなど、引き続き教員の指導力向上に向けた支援を進めてまいります。また、各校における好事例の共有を図るなど、課題解決に向けた取り組みを進めてまいります。
(担当 総務部 教育政策課)
② 事案の詳細を確認し、適切に対応してまいります。
(担当 教務部 教職員人事担当)
[以上です。]